仕事はどんどん効率化され
ますます簡略化
本当にだれでもできるものになった
会社はもはや新卒は採用しない
中途でパソコン操作ができる
アルバイトを採用し
わたしは素人を1週間で
似非デザイナーにしあげる教育担当になり
素人向けマニュアル作りのかたわら
会社の要請で色彩学を学ばされていた
「かわいい」「厳粛」「豪華」「知的」
「花屋」「葬儀屋」「ホテル」「学習塾」
形容詞ごと
職業ごとに匹敵する
配色サンプル
書体サンプル
構図サンプル
いままでやったことない人でも
コピー&ペーストして
文字を流し込むだけで
仕上げれるような
広告テンプレートの制作
アルバイトには
そのテンプレートを使ってもらい
スピード制作手順を指導する
吸収合併を繰り返した結果
ついに優良大企業になってしまった会社では
残業はしてはいけないことになっており
就業時間はとにもかくにも
時間をきりつめてムリヤリ制作
役職手当なんてもらってしまうと
品質向上のための色彩学の習得は
必然的に休日課題
就業時間以外のすべての時間を費やして
色彩心理と色彩科学を叩き込んだ
その日の項目は色彩と音
形状と音の関連性だった
こんなものに
関連性があるとは思えないけど
そんなものに関係を感じる人がいるのなら
広告に使えるのかもしれない
そう思いながら目を通した
□=赤
△=黄
○=青
そうかな?
意味不明
黄色=高く吹き鳴らされるトランペット
明るい青色=フルートの音色
赤色=ヴァイオリンの音色
暗い青色=チェロ
紫色=ファゴットの音色
橙色=チューバのファンファーレの音色
緑色=ゆるやかに奏でられるヴァイオリンの中音域の音色
これはなんとなく
わからないでもないか…
そしてその下に目をおろすと
ワシリー・カンディンスキー(1866-1944)
えーっ!
わたしはひとりきりの部屋で
思わず声をあげてしまった
あの人の抽象作品は
単なる思いつきや
インスピレーションではなく
緻密な分析による
意図的な表現ということか
彼の最も有名な作品は
「コンポジション」
彼はまぎれもなく
絵画で作曲していたということで
音がするのは
当然のことだったのかもしれない
色や形には本質的に音がある
具象がそれの邪魔をする
だから色の音を表現するためには
具象が画面にあってはならない
感動を表すのに形は不要
もしかしたら何かに感動して
その目の前にある具象を描いたとしたら
その方がウソくさいものかもしれない
感動とは純粋には形のないもの
それは心の動き
それは魂の波動
あの日の芸術論の時間
意味がわからないと思ったことが
常識になった瞬間だった
おわり