みんなに評価されなくても
家で禁止されても
すきなことはやめられない
ある日のこと
たまたま何かの都合で
教室を出るのが
ひとりになってしまった
つまんないと思いながら
もくもくと下駄箱に向かう廊下も
自分ひとりきり
洗い物がおわった給食室では
遠くでおばさんが
洗い桶とバケツを干している
教室のなかもがらんとして
ひとり司書の先生が
本の整頓をしている
だれもいない図書室
だれもいない図書室
だれもいない図書室!
わたしのそばにも
だれもいない!
わたしは急に方向転換して
小走りしながら
図書室の入り口へ行き
おもいっきり扉をあけた
一目散に絵本のコーナーにかけより
こころの中で叫んだ
そうだ今日は
最終下校時間まで
絵本を見よう!
そして手当たり次第
絵本をとりだしては
気がすむまで開いて眺めた
そうは言っても
全部見るには時間はない
猛烈な早さでとにかく
次から次へと開いて眺めた
どれもこれも楽しくておもしろい
いろとりどりの絵が
つぎからつぎへと目にとびこんでくる
しかも物語もちゃんとわかる!
なんて楽しい
なんてステキ
こんな幸せな時間が
今まであったかしら!
どれだけの本をめくったか
日も傾きかけて
とうとう下校の放送がなりはじめた
ああ今日は
もうこれで最後にしよう
そう思って手をかけた一冊の本
細い背表紙に印刷された文字が
なんだか美しくにおっていた
そしてひっぱり出した瞬間
わたしはかたまってしまった
この世界は何なのだろう!
今までみたことのない
なんとも言えないふしぎな世界
宝石のように輝いて
きいたこともない
ミステリアスな音が鳴っていた
中をひらいてもっと興奮した
こんな神々しい装飾の本は
本当に今まで見たことがなかった
すべてのページが
どこまでも緻密に描きこまれ
めまいのする美しさに
酔っぱらってしまった
お酒はのんだことないけど
酔ってわからなくなるとは
きっとこんな感じ
文字はたくさん書いてあるけど
やっぱりそんなものは必要ない
ひたすら絵を眺め
ストーリーにのめりこんでいった
怪しい月夜に
燃え盛る炎
どこまでも続く螺旋階段
微風になびく薄衣の裾
美しく花柄が織り込まれた上着
豪華に揃えられた銀の食器
描かれた装飾の隅々までが
ストーリーを限りなく再現している
そのすごみにさそわれ
つぎからつぎへと物語の奥へ奥へと
走りこんでいっていたそのときに
ふいにそばで声がした
下校の時間ですよ
見るとそばに先生が立っていた
残りは借りて帰って読んでね
我にかえったわたしは
はい
といいつつ慌てて本を閉じ
元の場所に戻すと
そのまま図書室をでていった
その日以来
わたしはひとりになると
図書室へ行くことにした
そしてまず最初にかならず
その輝く美しい本を探して手にとり
気のすむまで眺めた後に
他の本を見ることにした
それは卒業する日までつづいた
すきなことはやめられない