第1話 これ以上バカになってはいけない

小学校に入学したころ
絵本が禁止された

なぜなら絵本は
文字が読めない
人のためのものだから

文字が読めるようになったのだから
絵はいらないでしょうということ

確かに文字がほとんど読めなかった
幼稚園のときとは違う

絵がなくてもいろんなことが
イメージできるようになっている

自宅の絵本はすべて処分され
新しく買ってもらえるのは
たまにモノクロ挿絵の入っている
ほとんど文字ばかりの本

たまたま友人が読書好きなので
お互いの本を交換して遊ぶには
それはそれで適当に楽しめるけど
大して嬉しいものでもない

ある日友人にさそわれて
学校の図書室に行ったときのこと

彼女が夢中になっていたのは
世界のふしぎ

実際にあったとされる
超常現象や幽霊
謎の動物死体の本

本を広げて
なんだかよくわからない
白い物体を指さし
わたしの背中をたたきながら大興奮

ひととおり一緒に見たあと
彼女は未確認飛行物体と
宇宙生物の本を手にとり
貸し出しコーナーへと向かった

借りないの?
とたずねる彼女に
そんなに読まないからね
とわたしは答えた

かきかたのお手本のように
きれいな文字で
図書カートに書き込んでいる
彼女を眺めながら

ふと目をそらしたその先に
絵本が飛び込んできた

かわいい動物が
家にみたてたてぶくろのなかに入って
あたたまっている表紙

うさぎがつぶらな瞳でこっちを見ていた
一面に描かれたお花もようも
なんてステキ!

図書館を出ようとする彼女を引き止めて
今度はわたしが大興奮
これ見てよ!
かわいい!

その場で一緒にひととおり見たけど
もっとゆっくりじっくり見たいから
借りようかなと思った瞬間

絵本は
あっという間に読みおわるから
借りる必要がないよね

と彼女がわたしの手をひいて
その場を立ち去ろうとした

一瞬力んで抵抗したけど
はたと我にかえり
すかさず一緒に外へ出た

こんなもの借りて家にもってかえったら
またバカにされるにちがいなかった

わたしはバカだけど
バカじゃないふりをしなくては!

しかもこれ以上
バカになってはいけない

masausa基本ポイントもよう

てぶくろ

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つづき

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