妹も小学生に進級したころ
何かの用事で外出していた日
わたしたちふたりは
1冊ずつ本を買ってもらえることになった
書店の児童向け小説のコーナーで
どれにしようか迷っているわたしに
母親がこれはどうかと1冊差し出す
ガラスのうさぎ
題名はなんだか
かわいらしいけど
中身は戦争体験記のようで
たいして興味深くはない
でもまあこれでいいかと
ほぼ投げやりに決定した
そばで一緒に選んでいるはずの妹は
いつのまにかその場から消え
妹のための本を
夢中で選んでいる母親が
こんなのはどうかしらと
つぶやいている
しばらくすると妹が
どこからかもどってきて
母親の前に乗りだした
これにする!
そう叫んだ妹の手には
かわいらしい絵本が1冊
輝いていた
何もってきてるのよ
絵本じゃない!
幼稚園生でもないのに
そんなもの持ってきて!
それは返してきなさい
ここのコーナーから選びますよ!
そう言いながら母親は
1冊取り出し
妹の前に差し出した
そんなのいやだ!
そんなの読みたくない!
これにする!
妹が真剣にうったえた
小学生になったのに
そんなものばかり読んでいたら
バカになります
いいから早く返してきなさい!
いやだ!いやだ!
絶対いいやだ!
絵本は絶対買いませんよ!
ここの中の本しか買いませんよ!
いやだ!いやだ!
そんなの買っても読まないもん!
一体どうやって決着がつくのかと
興奮するふたりを
しばらくぼんやりながめていると
とどめの一声が鳴り響いた
わたし一生バカでいいもん!
なんと妹が勝った
しぶしぶ母親はレジに向い
その後に妹とわたし
これをお願いします
と言う母親の声は不満にみち
その横で妹はニマニマと笑っていた
あんなものばかり見ていると
本当にあの子は一生バカのままだわ
お母さんは本当に悲しいわ
家に帰ってからも母親は
わたしにそう小声でつぶやいた
しかし本当にバカなのは
わたしの方だった
結局その絵本を毎日眺めてしまったのは
妹ではなくわたしだった
お母さんごめんなさい
わたしはバカではないふりをしています