第2話 出会いは突然に

美術学校を卒業したわたしは
広告会社に就職した

そもそも画家になる気は
さらさらなかった

そんなことで生活できるとは
まったく想像できなかったし
そこまで絵が描きたいとも
思っていなかった

けれども毎日の
ほとんどすべての時間が
広告に掲載する
マンションの見取り図と

現地への案内地図を
描くことばかりに
費やされているのには
かなりの疑問

残業につづく残業に
休日出勤しても代休無し
絵を描くどころか
見る時間さえない日常には
不満でいっぱいだった

そんなある日の
比較的はやく仕事がおわった帰り道
駅前の書店がまだ開いていた

終電まで少し時間もある
ちょっと絵でもみて帰ろう

わたしは書店へ入り
画集のコーナーへと直進した

いろいろあるといったところで
図書館にくらべると
まったくさびしい

これといって好みのものが
見当たらないので
無難に名画でも眺めておこうと

すぐそばにあった画集を
手に取った

ルネサンス絵画からはじまり
バロックからロココへと

これといって真新しいものもなく
いつかどこかで
見たことがあるようなものばかり

ああもうこれ以上は
見ても仕方ないな

わたしは古典的な絵画が好き
だから近代以降は
いつも見ないのが習慣

そのまま閉じて
おわりにしようとしたけれども

なんとなく
たまには現代のものでもと
適当にページをつかみ
ざっくりとめくった

その瞬間
ふわりと響く音がした

わたしは一瞬かたまり
目だけで辺りを見渡した

ここは書店
そんな音がするわけない
しかもこんな音は
単体では発生しない

それは交響曲が終わった後の
余韻のような音だった

オーケストラの余韻だなんて

まさかとは思うけど
この絵から?
というか
この線から?

ひらいたページには
調子良く描かれた黒い線と
適当に赤や黄色でぬられた
意味のわからない模様

一体コレはなんなのだろうと
タイトルを見て驚いた

なんとそれは
コンサート

どう見ても
コンサートの絵ではなく
まがった線とゆがんだ面

しかもひと塗りしただけにしか見えない
どう考えてもコレは落書き

一体誰の作品だろうと
目をうごかして
入ってきた文字は

カンディンスキー

これ、これ、これ!
たしか芸術論の
抽象画の時間のときに
先生が言っていたあの人だ

わたしはしばらく凝視した
画面の隅から隅まで凝視した

意味がわからない
意味がわからない
意味がわからない

だけど確かに音がした
しかもコンサート会場でする音がした!

感動を伝えるのに形はいらない

夜の本屋
だれもいない画集コーナー

抽象画の威力に
一撃をうけた瞬間だった

masausa基本ポイントもよう

コンサート

masausa基本ポイントもよう

つづき

「絵画が伝えるもの」もくじ

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